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教職員一覧

玉岡 幸太郎

助教

専門分野 弦理論・量子情報
研究キーワード 量子重力、超弦理論、場の量子論、量子情報
趣味 旅行、散歩、星を見る

理論物理学、中でも弦理論の量子重力理論としての側面を研究しています。

ブラックホールの思考実験から、重力を含む系のミクロな記述は、より低い次元の空間に住む量子多体系と同様な自由度で説明できると期待されるようになりました。このような考え方のことを、ホログラフィー原理といいます。量子重力の有力候補である弦理論で見つかった具体例(AdS/CFT対応)などを通して、ホログラフィー原理が一般にどのように成り立つかを理解することが当面の目標です。

エンタングルメント・エントロピーの混合状態への一般化として、オッド・エントロピーと呼ばれる量を発見しました [1]。特に、その重力双対が entanglement wedge cross-section と呼ばれる極小曲面の一般化になっていることを、場の理論の計算から初めて示しました。その後、オッド・エントロピーの基礎的性質やAdS/CFT対応・他分野への応用についての研究を行ってきました [2,3]。
エンタングルメント・エントロピーには、 LOCC と呼ばれる操作のもとで 外部へ蒸留できる EPR ペアの数、と言う操作論的な意味づけが存在します。密度行列を事後選択 (post-selection) した状態へ拡張した遷移行列に対して、 擬エントロピーと呼ばれる情報量を新しく導入しました [4]。 擬エントロピーは、少なくとも特定の qubit の系で、事後選択を行った場合に蒸留できる EPR ペアの数と一致します。この擬エントロピーの量子重力や量子多体系における役割を明らかにする研究を行ってきました[5-7]。

熱力学的なエントロピーは統計物理において微視的な状態の数え上げとしても理解できました。では、ブラックホールのエントロピー、すなわち面積を説明する微視的な自由度は何でしょうか?より一般に、時空を記述する微視的な自由度は?量子重力を理解する上で本質的に重要な問いです。この文脈で重要な役割を果たす、エッジ・モードと呼ばれるゲージ理論特有の自由度のエンタングルメントの構造を調べてきました [8-9]。

近年のブラックホール情報喪失問題の理解の進展により、ワームホールの重要性が再認識されてきました。従来のAdS/CFTにおいて、空間的なワームホール (Einsten-Rosen bridge) は場の理論におけるエンタングルメントによって構成されると考えられています。しかし、低エネルギーの観測者(低エネルギーの観測可能量)は、時に場の理論の古典相関を Einsten-Rosen bridge と錯覚する場合があることを指摘しました [10]。

[1] K. Tamaoka,
“Entanglement Wedge Cross Section from the Dual Density Matrix,”
Physical Review Letters 122, no.14, 141601 (2019), [arXiv:1809.09109 [hep-th]].

[2] Y. Kusuki and K. Tamaoka,
“Entanglement Wedge Cross Section from CFT: Dynamics of Local Operator Quench,” Journal of High Energy Physics 02, 017 (2020), [arXiv:1909.06790 [hep-th]].

[3] A. Mollabashi and K. Tamaoka,
“A Field Theory Study of Entanglement Wedge Cross Section: Odd Entropy,”
Journal of High Energy Physics 08, 78 (2020), [arXiv:2004.04163 [hep-th]] .

[4] Y. Nakata, T. Takayanagi, Y. Taki, K. Tamaoka and Z. Wei,
"New holographic generalization of entanglement entropy,"
Physical Review D 103, no.2, 026005 (2021), [arXiv:2005.13801 [hep-th]] .

[5] A. Mollabashi, N. Shiba, T. Takayanagi, K. Tamaoka and Z. Wei,
"Pseudo Entropy in Free Quantum Field Theories,"
Physical Review Letters 126, no.8, 081601 (2021), [arXiv:2011.09648 [hep-th]].

[6] K. Goto, M. Nozaki and K. Tamaoka,
"Subregion spectrum form factor via pseudoentropy,"
Physical Review D 104, no.12, L121902 (2021), [arXiv:2109.00372 [hep-th]].

[7] Yutaka Ishiyama, Riku Kojima, Sho Matsui, Kotaro Tamaoka,
"Notes on pseudo entropy amplification,"
Progress of Theoretical and Experimental Physics 2022 (2022) 9, 093B10 [arXiv: 2206.14551 [hep-th]].

[8] S. Aoki, N. Iizuka, K. Tamaoka and T. Yokoya, “Entanglement Entropy for 2D Gauge Theories with Matters,” Physical Review D 96, no.4, 045020 (2017), [arXiv:1705.01549 [hep-th]]

[9] T. Takayanagi and K. Tamaoka, “Gravity Edges Modes and Hayward Term,” Journal of High Energy Physics 02, 167 (2020), [arXiv:1912.01636 [hep-th]].

[10] K. Goto, Y. Kusuki, K. Tamaoka and T. Ugajin,
"Product of random states and spatial (half-)wormholes,"
Journal of High Energy Physics 10, 205 (2021), [arXiv:2108.08308 [hep-th]].

学生へのメッセージ
物理の理論的な研究をしていると、一見全く異なる自然現象が、数式で書くと全く同じに見える、ということがしばしばあります。私の研究している超弦理論やホログラフィー原理は、そのような面白い視点をたくさん提供してくれます。興味を持った方、一緒に研究しませんか?