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教職員一覧

村田 佳樹

准教授

専門分野 素粒子論・弦理論
研究キーワード 一般相対性理論、ブラックホール物理学、AdS/CFT対応
趣味 テニス、ゴルフ

空間や時間自体のダイナミクスを扱う理論が一般相対論です。ブラックホールは、一般相対論の最も重要な研究対象の一つです。超弦理論の進展によりAdS/CFT対応が発見され、最近ではブラックホールの量子的側面を理解することも可能になってきています。本研究室では、ブラックホール物理の基礎的な理解、またその応用を目指した研究を行っています。

我々の世界には、1つの時間方向と3つの空間方向があります。私の研究分野では、時間も空間も全部ひっくるめてしまって、このような時空を4次元時空と呼びます。想像しにくいかもしれませんが、空間方向の数が3より大きい時空を考えることもできます。つまり、縦・横・高さの3方向に加えて、他にも空間方向があるような時空です。このような時空を高次元時空と呼びます。そんなものを考えて何の意味があるのかと思うかもしれませんが、例えば超弦理論は高次元時空を予言していますし、後に述べるAdS/CFT対応でも一般には高次元時空を考える必要があるのです。4次元時空をより深く理解するために高次元時空を考えるという人もいます。4次元時空がどのくらい特別なのかは高次元時空を知らないと分からないことです。

私は、高次元時空における一般相対論に興味をもって研究してきました。特に、高次元におけるブラックホールの安定性に興味を持っています。4次元時空では、丸っこいブラックホールしか存在しないことが知られているのですが、高次元ではもっと複雑なブラックホール解が存在します。例えば、ドーナツのような形をしたブラックホールが知られており、これはブラックリングと呼ばれています。「高次元時空では、どのブラックホールが出来るのか?」というのが私の素朴な疑問であり、これに答えるためにはブラックホールの安定性を調べる必要があるのです。これまでの研究の成果ですが、例えば[1]があります。特に、私は共同研究者と共にブラックリングには不安定性があることを世界で初めて発見しました[2]。最近では、文理学部の院生とも共同研究を行い論文も書きました[3]。
上記は、一般相対論の基礎研究にあたります。私は一般相対論の応用にも興味を持って研究しています。近年の超弦理論の発展により、AdS/CFT対応が発見されました。これは、ある種の場の理論と一般相対論が等価関係にあることを予言します。最近では、この対応関係の量子色力学(QCD)や物性系への応用も盛んに研究されて来ました。このAdS/CFT対応の発見によって、一般相対論が全く研究分野に応用可能になって来たのです。特に私はAdS/CFT対応における非平衡過程の研究をしてきました。場の理論側では非平衡過程の扱いは困難なことが多いですが、一般相対論では単にダイナミカルな時空を扱えば良いことになります。これは一般相対論の研究者の得意分野です。例えば、[4,5]のような研究成果があります。この研究を通して物性物理の研究者とも楽しく共同研究させてもらいました。
AdS/CFT対応の考え方を用いて、「場の理論側にブラックホールらしさを見出せるか?」という問題にも取り組んでいます。我々の宇宙のブラックホールの姿を観測すると丸い影が観測されます。この影はブラックホールに光が吸い込まれることで現れます。AdS/CFT対応によれば、ブラックホールもある場の理論の状態に対応します。では、場の理論側の操作でこの影をみることは出来るのでしょうか?我々は、この問題に取り組み、実際にそれが可能であることを示しました[6]。観測量をアインまた適切な模型を用いて、観測される影の画像化することにも成功しました (図1)。最近では、スピン系を用いてこのような一般相対論らしい現象が実際に実験で観測出来るのか?という問題にも、物性の研究者の人たちも一緒になって考えています[7]。

[1] Keiju Murata and Jiro Soda, "Stability of Five-dimensional Myers-Perry Black Holes with Equal Angular Momenta", arXiv:0803.1371 [hep-th] Prog.Theor.Phys.120:561-579,2008

[2] Pau Figueras, Keiju Murata, Harvey S. Reall, "Black hole instabilities and local Penrose inequalities." arXiv:1107.57854 [gr-qc] Class.Quant.Grav.28:225030,2011.

[3]Shunichiro Kinoshita, Tomohiro Kozuka, Keiju Murata, Keita Sugawara,

"Quasinormal mode spectrum of the AdS black hole with the Robin boundary condition" 2305.17942 [gr-qc]

[4] Keiju Murata, Shunichiro Kinoshita, Norihiro Tanahashi
"Non-equilibrium Condensation Process in a Holographic Superconductor"
arXiv:1005.0633 [hep-th]
JHEP 1007:050,2010.

[5]Koji Hashimoto, Shunichiro Kinoshita, Keiju Murata, Takashi Oka,
"Holographic Floquet states I: A strongly coupled Weyl semimetal"
arXiv:1611.03702 [hep-th]
JHEP 1705 (2017) 127

[6]"Einstein Rings in Holography "
arXiv:1906.09113 [hep-th]
Phys.Rev.Lett. 123 (2019) no.3, 031602

[7]Motoaki Bamba, Koji Hashimoto, Keiju Murata, Daichi Takeda, Daisuke Yamamoto,
"Holographic Teleportation in Quantum Critical Spin Systems"
2310.13299 [hep-th]

図1場の理論の観測量から構成されたブラックホールの像
学生へのメッセージ
物理がみなさんの将来の役に立つかどうかは分からないですが、役に立つかどうかで勉強することを決めても人生が面白くないと思います。興味がある人がいれば是非一緒に物理やりましょう。