研究内容の概要
磁性体や超伝導体のような機能性物質をはじめ、最先端の量子コンピュータ、果てはブラックホールまで、あらゆる「もの」の性質や発現する現象は、その「もの」を構成する微視的要素の量子力学と熱統計力学などで決定されます。本研究室では、対象とする理論模型に対して物性理論的な立場から解析計算や数値計算を行い、様々な(特に量子力学的な)多体系の根底にある物理を解明することを目指しています。詳しくは出版論文をご覧ください。非専門家向けの解説としましては一部の研究内容をプレスリリースしていますので、下部のリンクからご参照ください。

注目して研究しているものの一つに量子フラストレート磁性体という物質群があります。この物質群では、磁性を生んでいる無数の量子スピンが互いに競合する相互作用のもとで“フラストレーション”を感じ、通常の物質よりも量子力学的な効果を強く受けます。その結果、ミクロな量子力学の影響がマクロな実験室での測定結果に目に見えて現れることがあり、基礎科学的にも将来の革新的デバイスへの応用の面からも非常に興味深い物質群です。我々は実際の固体材料実験を行っている国内外の複数の実験グループと連携し、理論・実験両面からのアプローチで研究しています。
⇐量子三角格子反強磁性体の相図
[DY et al., Nat. Commun. 12, 4263 (2021)より]
また、レーザー光と原子気体を用いた最新技術によってデザインされた人工的な量子系に対する理論研究も行っています。化学合成の制限がある実物質と異なり、原子気体人工系ではこれまで”机上の空論”だったような物質も自由自在に(とまではいきませんが)作成できます。これを利用して、高温超伝導や量子スピン液体といった固体物理学の難題をはじめ、量子色力学やダークマターのような様々な問題を人工的にシミュレートすることで問題解明に迫ることができると期待されています(量子シミュレーションと言います)。さらに、レーザー光の格子上に並べた原子やイオンを量子ビットとして量子情報処理(量子コンピューティング)を行う試みも始まっています。

文部科学省科研費学術変革領域(A)の研究課題『極限宇宙の物理法則を創る-量子情報で拓く時空と物質の新しいパラダイム』(極限宇宙)にも計画研究の分担者として参画しています。
現在進行中および過去のプロジェクト
研究課題 | 提供機関 | 制度名 | 区分 | 研究期間 |
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物質・情報・時空を統合する量子シミュレーション基盤の創出 | 科学技術振興機構 | さきがけ | 代表 | 2024年10月 – 2028年3月 |
ホログラフィック双対性から導かれる新奇量子物性現象の開拓 | 文部科学省 | 科研費基盤研究(C) | 代表 | 2024年4月- 2027年3月 |
人工量子物質による量子ブラックホールの解明(代表:手塚真樹) *極限宇宙の物理法則を創る-量子情報で拓く時空と物質の新しいパラダイム(代表:高柳匡)内の計画班 | 文部科学省 | 学術変革領域研究(A) | 分担 | 2021年9月 – 2026年3月 |
冷却原子実験を用いた空間異方性を持つ三角格子反強磁性モデルの研究(代表:福原武) | 文部科学省 | 科研費基盤研究(B) | 分担 | 2023年4月 – 2027年3月 |
極限環境や人工物質を利用した量子物性の開拓と制御 | 日本大学文理学部 | 付置研究所所員研究費 | 代表 | 2021年4月 – |
圧力下テラヘルツESRによる三角格子反強磁性体CsCuCl3の研究 | 神戸大学 | 分子フォトサイエンス研究センター共同利用研究 | 代表 | 2018年4月 – |
現在進行中
研究期間満了
人工量子系における量子状態同定および量子もつれの定量化法の開発 | 科学技術振興機構 | さきがけ | 代表 | 2021年10月 – 2025年3月 |
トポロジカル磁性体における電気磁気効果に起因する磁気光学応答(代表:古川信夫) | 文部科学省 | 科研費基盤研究(B) | 分担 | 2022年4月 – 2025年3月 |
固体物質系と光格子量子シミュレータを繋ぐ新奇フラストレート量子物性の理論研究 | 文部科学省 | 科研費基盤研究(C) | 代表 | 2018年4月 – 2023年3月 |
フラットバンドを持つ光格子を用いた新奇超伝導物性の開拓(代表:土屋俊二) | 文部科学省 | 科研費基盤研究(C) | 分担 | 2019年4月 – 2022年3月 |
冷却原子の高度制御に基づく革新的光格子量子シミュレーター開発(代表:高橋義朗) | 科学技術振興機構 | CREST | 参加 | 2016年4月 – 2022年3月 |
原子の核スピン多自由度を用いた革新的な高温超伝導・磁性の開拓 | 青山学院大学 | アーリーイーグル研究支援 | 代表 | 2020年4月 – 2021年3月 |
フラストレーションと熱・量子揺らぎによって創発する新奇な相転移現象 | 青山学院大学 | CATプロジェクト | 代表 | 2018年4月 – 2021年3月 |
光と量子の最先端技術を用いた人工物質の創造と新奇物性開拓 | 青山学院大学 | アーリーイーグル研究支援 | 代表 | 2019年4月 – 2020年3月 |
二次元フラストレート量子スピン系における磁場誘起トポロジカル相転移の理論 (代表:宮原慎) | 文部科学省 | 科研費基盤研究(B) | 分担 | 2017年4月 – 2020年3月 |
新奇フラストレート格子多体系の量子相転移の研究 | 文部科学省 | 科研費若手研究(B) | 代表 | 2014年4月 – 2018年3月 |
量子多体系における複数秩序共存相の理論的解析 | 理化学研究所 | 基礎科学特別研究員研究費 | 代表 | 2011年4月 – 2014年3月 |
異常なヒステリシスを伴う新奇一次相転移現象の理論的解析 | 文部科学省 | 科研費研究活動スタート支援 | 代表 | 2011年4月 – 2013年3月 |
強相関電子系の超伝導と磁性に関する理論的アプローチ | 文部科学省 | 科研費 特別研究員奨励費 | 代表 | 2008年4月 – 2011年3月 |
これまでに配信したプレスリリース一覧
タイトル(リンク) | 年月日 | リリース機関 |
エントロピー制御による量子シミュレータの極低温冷却法を確立 – 高温超伝導や量子磁性などの仕組みの解明に期待 – | 2024/5/21 | 日大・東京理科大・科学技術振興機構 |
超低温の原子の気体が液滴となる新たな形成機構を解明 気体と液体の両方の特徴をもつ、物質の新しい状態 | 2022/3/3 | 近畿大・日大 |
圧⼒によって磁性物質の量⼦性を引き出すことが可能に – 古典⼒学と量⼦⼒学のクロスオーバーの制御 – | 2021/07/12 | 日大・神戸大・青学大・東工大・東大 |
3色の量子気体を用いた人工的な磁石における新たな量子磁気現象を発見 | 2020/08/05 | 青学大 |
フラストレートした量子磁性体の量子シミュレーション方法を提唱 – 負の絶対温度をもつ気体の有効利用 – | 2020/03/19 | 青学大・近畿大・科学技術振興機構 |
量子干渉効果と格子欠陥が磁気準粒子に及ぼす作用を中性子散乱で観測 | 2019/08/21 | 東工大・青学大・原子力機構・J-PARC |