研究

手法

1) 電気炉等を用いた試料物質の合成
2) X線回折や分光測定による試料の評価
3) パルス光を用いた時間分解分光測定とイメージ測定

対象物質

1) 蛍光体(希土類添加した酸化物)
2) 遷移金属酸化物
3) 誘電体

興味のある現象

1) 素励起の生成・伝播過程の解明
2) 相転移ダイナミクスとその可視化
3) 配位子場の制御

これまでの研究例

4) 蛍光体CaTiO3:Pr,Alからの赤色発光とその残光特性

 誘電体CaTiO3を母材とし、Pr3+イオンを発光中心とする蛍光体CaTiO3:Prは、600 nm付近に強い赤色の蛍光を発することが知られています。またAlを添加することで、この発光強度が増大するとともに数100秒にわたる長い残光を示すようにもなります。我々は、この残光特性を生む要因について詳細に調べるために、単結晶化した各種組成の試料を作成するとともに、低温から高温までの領域で様々な発光分光測定を行なっています。


3) マグネリ相チタン酸化物Ti4O7の光誘起相転移

 マグネリ相チタン酸化物TinO2n-1は、規則的な層状欠陥を有する格子を持ち、温度変化に応じて金属―絶縁体(M-I)転移を示します。中でもTi4O7は、M-I転移が二段階で起こる特異な系として知られています。この低温相では、3価のTiイオンが二量体を成す電荷整列状態となっており、高温相では3.5価の均一分布となります。中間相では二量体の整列が乱れた状態にあると考えられており、低温相および中間相を定常光または短パルス光で励起すると、光誘起相転移が起じます。我々は、Ti4O7の単結晶試料を作成し、超短パルス光を用いた時間分解反射分光法で、この光誘起相転移の過程を調べました。下図(a)は、中間相を光励起した際の1.6 eV位置でのプローブ光の反射像の変化から、相転移割合(f)の空間変化を求めたものです。相転移した領域が時間経過につれて増大するとともに、水平方向に空間的な拡大をしているのが分かります。各相転移割合の拡大速度を同図(b)のように定め、その速度の時間変化を求めたのが同図(c)になります。この結果から、相転移領域の拡大が主に音響フォノンの圧力に依ることが示唆されています。

 また、自由電子吸収に対応するドゥルーデ吸収端の変化に高感度なテラヘルツ(THz)光をプローブとして、このI-M転移の過程を観測しました。系統的な作成条件の探索の結果得られた、厚さ5 μmの極薄な単結晶試料を用いることで、THz光の透過測定が初めて可能となり、過渡的な金属相の出現とその自己増殖過程を改めて見出しています。今後、THzプローブ光のフーリエ解析により時間分解分光を行うことで、中間相における電子状態の解明が更に進むことが期待されます。

2)赤色蛍光体Eu:Ca2ZnSi2O7の発光ダイナミクス

 演色性が良い白色LEDに向けて、青色発光ダイオードで効率良く発光する赤色蛍光体の開発および研究を行いました。狭い配位の架橋酸素と大きな価数の非架橋酸素を持つものという探索方針の下、Eu2+イオンを含む層状ソロ珪酸塩の一つCa2ZnSi2O7を選び、その蛍光体の合成と、発光およびその緩和特性の観測を行いました。その結果、発光は600 nm中心で色温度は2000~3000 Kと望ましい長波長にあり、励起スペクトルのピーク位置も460 nmで青色LED励起に適しているとの結果を得ました(左図参照)。また短波長励起においては、右図のように励起波長に応じて発光スペクトルの形状が変化することを見出しました。これをEuの二価イオンが過渡的に三価に還元されているとして、解釈できることを示しました。


1)価電子帯の微小分裂準位からの量子ビートの観測

 p型透明半導体である、層状硫酸化物LaCuOCh(Ch=S,Se)に対し、励起パルスエネルギーを、励起子吸収の近傍3.25~3.29 eVの間で掃引する縮退四光波混合の測定を4 Kで行いました。得られた信号の減衰部分には、上図のように励起子吸収ピークの位置3.266 eVにおいて、最も明瞭に弱い振動構造が観測されました。この量子ビート構造は、微小なエネルギー間隔で隔てられた励起子それぞれの分極位相間の干渉によるものであり、振動周期480 fsから得られる分裂の幅は9 meVとなります。この値は第一原理バンド計算から求めたSO分裂エネルギーに一致しました。以上の結果から、これまで実験的には見出されていなかった、LaCuOSの分裂した価電子帯準位の存在が確認されました。


実験装置