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研究内容

2.銅酸化物超伝導体関連物質の合成と評価

1911年、Kamerlingh Onnesによって水銀で見出された超伝導現象は、その後、様々な元素超伝導体、合金・化合物超伝導体、酸化物超伝導体、有機超伝導体などの発見が続き、その基礎と応用の両面にわたる研究は、急速に拡大しました。1957年にはBCS理論よって基本的なメカニズムも解明され、理論的にはTCの上限が30 K程度といわれていました。ところが、1986年にJ.G.Bednortz & K.A.MüllerによってLa-Ba-Cu-Oで約30 Kの超伝導が発見されると、急速にTCの最高値が更新され、わずか数年でTCが150 Kを超えるという事態にまで発展しました。La-Ba-Cu-Oに始まる一連の銅酸化物超伝導体はメカニズムの点からは従来のBCS理論だけでは説明がつかず、それ故どこまでTCが上昇するのかも予想がつかないという状況で、短期間のうちに理論・実験両面からさらに多くの研究者が参入することとなりました。

圧力というパラメーターは物質に対して原子間距離、すなわち格子定数を変化させる効果があるため、隣接原子に所属する電子の波動関数の重なりが変化し、電子間相互作用も大きく変化します。そのため、圧力下では絶縁体から金属に転移したり、また、磁性が消失して新たに超伝導が現れたり、場合によってはその逆の現象が観測されています。このように圧力効果を利用した研究は新物質を合成し新しい現象を探すことと同様の可能性を秘めていることになります。すなわち、新現象探索=新物質探索です。また、1気圧下で観測されている現象を高圧下で測定することは、その現象の圧力に対するレスポンスから物質に対する知見を深めることになり、置換効果とはまた異なる物質の本性が見えてくることもあります。図1にこれまで測定を行ってきた種々の酸化物超伝導体のTcの圧力効果を示します。圧力に対してTcが様々に変化していますが、元素置換効果との比較を始め、高圧下でのホール係数測定やX線や中性子線を用いた高圧下の結晶構造解析などの結果から、それぞれの物質について解析がなされています。特に1気圧で最高のTc=134Kを示すHgBa2Ca2Cu3Oyは、約34GPaの圧力下で164KまでTcが上昇し、このTcが現在の最高値となっています。また、3GPaを超える圧力で超伝導が発現する、圧力誘起超伝導体(Ca,Sr)14Cu24O41-δがあります。これはCu-O面の電子間相互作用ネットワークの形状からスピンラダー系物質とよばれ、理論的に超伝導が予測されていたものを、我々のグループが東京大学物性研究所の毛利グループと青山学院大の秋光グループと共同で研究を進め、高圧下で最初に超伝導を見つけました。このとき発表した論文2)は、日本物理学会で発行しているJournal of Physical Society of JapanのJPSJ Highlightの重要論文11の中の一つに選ばれています。酸化物超伝導体の圧力効果に関しては、拙著「マテリアルサイエンスにおける超高圧技術と高温超伝導研究」(冨山房インターナショナル)2006年を参照して下さい。我々のグループでは、これらの銅酸化物超伝導体およびその関連物質に元素置換を行い、またさらに圧力を加えることで、新しい超伝導体の開発、基礎物性の測定を行っています。

  • 様々な酸化物超伝導体の圧力効果

    図1 様々な酸化物超伝導体の圧力効果
    (図1をクリックすると拡大します。)

  • マテリアルサイエンスにおける超高圧技術と高温超伝導研究

    マテリアルサイエンスにおける超高圧技術と高温超伝導研究 (日本大学文理学部叢書) 高橋博樹 2006年01月

  1. 1) H.Takahashi and N.Môri, Studies of High Temperature Superconductors Vol. 16,
     (Nova Science Publishers Inc. 1996) pp.1-64
  2. 2) M.Uehara et al., Journal of Physical Society of Japan 65 2764 (1996)